2004年度日本陶磁協会賞受賞記念
                           陶説  2005.7月号より抜粋                  
      林 邦佳さん


                                    小 林 東 五
         



               
 林邦佳さんの作品に初めて接したのは、二十五年くらい前のことでした。北九州市門司の

某陶房を訪れた折、棚の隅に放置されていた赤絵の長皿を手にした時だったのです。私は

思わず感嘆の声をあげてしまいました。実に古格を有し、しかも冴えた気魄を感じ、いたく心

を動かされました。窯主は、これは瀬戸の友人の作ですよ、と教えてくれたので彼の存在を

知ったわけです。

 現代の陶磁作品に一番欠如しているものは古格と気品ではないでしょうか。当時の林邦佳

さんは恐らく萬暦を中心とした古陶の真髄を追い求めていたのでありましょうが、彼本来が具

有している並ならぬ個性がほどよく現れ出ておりました。当今の作家は個性が貧弱なので無

けなしの個性を大袈裟に強調することばかりに専念しているようです。個性とは表面に剥き出

しにしなくても自ら滲み出てくるものだと思います。

 彼と出会ったのは長皿を見て一年ほど経過した頃だったと記憶しております。私は無師で作

陶を始めたもので正規な勉強をしていないため彼に会うごとに教わった事は限りがありません。

 彼は名古屋工業試験場に在職中、本格的に窯業の基礎を修得してやがて作家活動に踏み

込んだと聞いております。染付、豆彩、金襴手など、行くとして可ならざるはなく、しかも前に述

べましたように古格を有し、なお模倣に陥ることなく歴然として彼の天賦と感性の豊かさが独自

の風格となって生みだされた作品だと思います。
 
 會て、中国陶磁は官窯、民窯を問わず製作の分野が別れていて、原料、成型、絵付、焼成、

選別等が各々の分担により進められていたようです。今でも此の方式をとっている所は多く、

謂わば集団によって製作が成り立っておりました。彼はその総てを一括して一人でやってのけ

るのです。余程の精神力と各部門に渉る技の蓄積が無い限り成し能わざることです。彼の作品

は何れを見ても高い完成度を示し ぎ然としています。

 最近はお互いに忙しく会うことも侭なりませんが、それでも時折文通は交わしております。今

までに二人展を催したこともありましたが、日が暮れると酒亭で相語った連宵がなつかしく思い

出されます。

 今回、日本陶磁協会賞を受賞されましたことを心より喜ばしく思っております。林邦佳さんの

作品に熱い視線をそそいで下さった方々が在(あら)せられたことを知り、更に彼が正当な評

価を得られたのだと受けとめております。

 彼はなお春秋に富む作家です。きっと眩いばかりの作品を今後も生み出してくれることでしょう。

 林邦佳さん本当におめでとうございます。喜びが、あまりにも大きすぎて筆が及ばないのです。

                              
                                              
                             辱友 小林東五

   

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